奈良家庭裁判所 昭和62年(家)1235号 審判 1987年11月19日
申立人 山中孝三郎
主文
本件申立てを却下する。
理由
第1申立て
1 趣旨
奈良市長に対し、申立人が昭和62年8月19日になした事件本人の出生届出を受理すべきことを命ずる旨の審判を求める。
2 実情
(1) 事件本人は、申立人と妻容子の長男として昭和62年8月6日出生した。
申立人は、同月19日、奈良市長に対し、事件本人の出生届を提出したが、名前の舜という文字が戸籍法施行規則60条に定める文字に当たらないという理由で、受理されなかつた。
(2) 戸籍法50条にいう常用平易な文字は、同法施行規則60条によつて網羅されるとはいえない。したがつて、同規則の文字は、例示的に列挙したものと考えるのが妥当である。
(3) 事件本人の名である舜は、当用漢字の瞬の源字であり、中国の古代説話にある五帝の一人の名前でもある。瞬よりも平易な文字であつて、名前として使用を認めるべきである。
第2当裁判所の判断
1 申立人に対する審問の結果及び奈良市長の回答書(意見書)並びに本件記録中の資料によれば、申立ての実情(1)記載の事実が認められる。そして、事件本人の名である舜の文字が戸籍法施行規則60条に定める常用漢字及び人名用漢字のいずれにも当たらないところ、同条は、戸籍法50条2項の常用平易な文字の範囲を限定したものであることは、法条の趣旨に照らして明らかであり、これを例示的に列挙したものと解することはできない。また、常用漢字及び人名用漢字が常用平易な文字を網羅しているかいないか議論の余地があるとしても、常用平易な文字として妥当な範囲を挙げたもので、不合理なものといえず、舜の文字が平易な文字に当たるとしても、常用されているものとはいえない。
2 申立人の主張は採用できず、申立人の事件本人の出生届を受理しなかつた奈良市長の処分は相当であり、本件申立は理由がないから、却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 山本博文)